主の祈り

「だからこう祈りなさい。『天にいます私たちの父よ。御名があがめられますように。御国が来ますように。みこころが天で行われるように、地でも行われますように。私たちの日ごとの糧を、今日もお与えください。私たちの負い目をお赦しください。私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦しました。私たちを試みにあわせないで、悪からお救いください。国と力と栄えは、とこしえにあなたのものだからです。』」(マタイ6:9~13)
ここは「主の祈り」と呼ばれている箇所で、イエスさまが弟子たちにどのように祈るべきかを教えておられるところです。
「主」とは、天地万物を造られた創造主、すなわち神さまのことです。多くの教会ではイエスさまを中心に語りますが、それは間違いではありません。しかし、イエスさまが教えておられる祈りの中心は、父なる神さまにあります。父なる神さまの御名が、すべての被造物によってあがめられることなのです。
「御国が来ますように」とは、私たち人間、すなわちアダムの失敗によって永遠のいのちが失われてしまいましたが、人間の本質の中には、失われた神の国がどれほど素晴らしいところであるかを求める思いと、そこへ移されることへの願いがあるということです。
また、ルカ17:21には神の国について語られています。それに対してイエスさまは、「『見よ、ここにある』とか、『あそこにある』とか言えるようなものではありません。見なさい。神の国はあなたがたのただ中にあるのです。」と語っておられます。
皆さんは、このお言葉が何を指していると思われるでしょうか。考えてみてください。
これは、やがて来る神の国を指していることでもあります。しかし同時に、「あなたがたのただ中にある」とも言われています。「真っただ中」という言葉がありますが、それは遠い将来ではなく、「今」「現在」という意味も含んでいます。
私たち人間は、争ったり、人に対して悪い感情を抱いたりしているとき、心の中から平安や愛、感謝が失われています。そして、その状態は無意識のうちに顔や言葉、行動に表れるものです。
反対に、人を愛し、その人の幸せを願う思いがあると、その思いもまた顔や言葉、行動の中に自然と現れます。そして、おのずと愛し合う関係へと導かれていきます。それは、心の中に平安と平和が与えられている状態です。
私は、イエスさまを信じる前の自分と、信じた後の自分との違いを実際に経験してきました。
しかし、長い信仰生活を送っている者には特に注意が必要だと思います。信仰を持ったばかりの人は、自分の良心に敏感で純粋なことが少なくありません。しかし、長年信仰生活を続けているクリスチャンの中には、その純粋さが薄れ、霊的な鈍感さが生まれてしまうこともあります。
主の祈りには、「私たちの負い目をお赦しください。私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦しました。」という言葉があります。
また聖書には、「人間には、一度死ぬことと、死後にさばきを受けることが定まっている」(ヘブル9:27)とあります。
赦されることと、赦すことは、神の国に入るうえで非常に大切なことです。
これは将来の問題だけではなく、今の私たちの人生にも大きく関わっています。心の中で赦しができていないと、人を愛することが難しくなり、平安や平和を味わうこともできなくなります。
神の国とは、互いに愛し合い、尊び合うところです。その中に神の国の平和と平安が生まれてくるのです。
「みこころが天で行われるように、地でも行われますように。」
真のクリスチャンの願いは、天においても地においても神さまの御名があがめられ、神さまの御心が実現することです。それこそが神の国の姿なのです。
また聖書には、「もし人の罪を赦すなら、あなたがたの天の父もあなたがたを赦してくださいます。しかし、人を赦さないなら、あなたがたの父もあなたがたの罪をお赦しになりません。」と記されています。
神の国が平和であるように、この地上にも平和が実現することを私たちは祈ります。しかし実際には、平和をつくるよりも、自分のほうが正しいと思いたがるのが人間です。
そのような思いを利用して働くのがサタンです。サタンは神の国が実現することを望みません。なぜなら、神の国が広がれば、自分の働きが打ち砕かれるからです。そのため、肉の思いによって自分の正しさを主張させ、人と人との関係を壊そうとするのです。
しかしクリスチャンは、自分に従うのではなく、神さまの御心に従う者です。だからこそ、「国と力と栄えは、とこしえにあなたのものだからです。」と祈ることができるのです。
人は誰でも、自分の正しさを主張したいものです。自分は間違っていないと思い続けたいものです。しかし、一歩謙虚になり、自分のどこが間違っているのかをイエスさまに教えていただくのです。
そして、自分の過ちに気づいたなら、それを認め、へりくだるのです。
そこから本当の平和が生まれてくるのです。

著:石川洋一